外傷性頸部症候群(むち打ち)
Ⅰ.最初に
Ⅱ.むち打ちとは
Ⅲ.治療中の注意点
Ⅳ.後遺障害診断
Ⅴ.非該当、14級、12級の違い
Ⅰ.最初に
むち打ちについて「等級をとるため」の基礎知識ついて書いています。
自賠責損害調査事務所(以下、「認定する側」といいます)の後遺障害等級の認定プロセスに関しての「傾向と対策」に特化した記述をしています。
Ⅱ.むち打ちとは
むち打ちは診断書上の傷病名欄に通常、頸椎捻挫、頸部挫傷、外傷性頸部症候群などと書かれます。傷病名は医師の間でも統一されているわけではありませんのでこだわる必要はあまりありません。要するに、むち打ちとは交通事故の衝撃によって首が大きく前後に動いたという意味です。そして、結果として生じた痛みなどが後遺障害として評価の対象となります。
後遺障害上の分類としては神経症状であり、等級が認定されると「局部にがん固な神経症状を残すもの」(12級13号)か「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)のいずれかになります。14級9号と認定されるケースが圧倒的に多いのが現状です。
Ⅲ.治療中の注意点
(ア) 自覚している症状をすべて医師につたえること
認定に際しては、症状の一貫性がとても重視されます。最初からあった症状でも、黙っていたのではとカルテに書いてもらえません。後になって症状をつたえても途中から現れた症状として事故との相当因果関係が否定されます。もし、言い忘れた症状があればすぐに受診して伝えたほうがいいでしょう。
一貫性というのは、最初にでていた症状が後遺障害診断書を書く時点まで消失することなく続いていたということです。ですから、最初が肝心です。
one point advice 治療中に症状が和らぐことがあります。しかし、症状が直線的に快方に向かうというのは稀です。たまたま、診察日にあたった日が体の調子がいいからといって、すぐに「よくなりました」などと医師に伝えるのはいかにも軽率です。症状が一旦消失したとされて、ぶり返しても事故との関係が疑われる恐れがあるからです。 1ヶ月程度様子をみて、よくなったと実感できたときに初めてそのことを医師にお礼とともに伝えるのがよいでしょう。 |
(イ) 痛い部位のレントゲンを撮ってもらうこと
レントゲンを撮らない医師はいないと思いますが、ここでいうのはきちんと痛いところを患者が訴えていて、医師もレントゲンの必要性を認めていたことを後で証明するためです。
例えば、診断書に頸部痛、腰痛と書いてあるのにレントゲンは頸部だけだったとしたら認定する側は、「腰痛はたいしたことない」と考えがちです。また、経過診断書(毎月保険会社あてに送られる診断書)に頸椎捻挫としか記述がない場合でも、診療報酬明細書(レセプト)にはレントゲンをとった部位が必ず記載されますので、頸部と腰部のレントゲン撮影があったことがわかれば、腰痛も訴えていたことの証明になります。
同様の理由で、MRIも有効です。MRI検査はどこでもできるというわけではありませんので、MRI検査は医師がその必要性を認めていたこと、言い換えるとレントゲンに写る骨折や脱臼以外の軟部組織の損傷が症状の原因かもしれないと疑っていたとの証明になりえます。つまり、相当な痛みがあったのだろうなという認定する側の判断を導きやすいと考えます。
one point advice 骨の経年性変化や椎間板の膨隆(軽度のヘルニア)やなどが画像からわかることがあります。年齢とともにこれらの変化がおこることは避けられないことですので、とくに若い方でない限り何らかの異常所見があるのが普通です。また、異常所見があっても症状がでないのもまた普通です。したがって、画像上に異常所見があったとしても等級が認定されるとは即断できません。 ただ、事故をきっかけとしてそれまで無症状だったものが、痛みやシビレなどの症状がでてきた場合には、事故による衝撃が「引き金」となって現れた障害と評価され等級が認定されることがあります。 つまり、事故による直接的な器質的損傷がなくても経年性の変化を確認するうえで画像所見は重視されるのです。 |
(ウ) きちんと通院すること
症状の一貫性について既述しましたが、連続性も重要です。通院が連続している、いいかえれば症状が連続しているかどうかです。むち打ちは14級が圧倒的に多いと前述しましたが、医師から見てほとんど異常がみあたらないという(他覚的所見がない)場合でも14級が認定されうるのは、症状が連続しているかどうかを通院状況で判断しているからです。とはいえ、漫然とただ通院すればいいというものでもないところが難しいところです。
one point advice 痛みは目に見えません。誰も証明できません。でも、「痛ければ通院して治療しますよね」と認定する側は考えます。通院間隔が空いている場合は、「症状はなくなったのだろう」と必ず考えます。1カ月以上通院していない期間があると認定する側は「治療の中断がある」としてマイナスの評価をします。 |
(エ) いつも同じ治療の繰り返しとなっていないか
症状の一貫性があって、治療の連続性もあるのに等級が認定されない場合があります。これは最初から最後まで同じ治療の繰り返しが続いている場合に多くみられます。
認定する側は治療経過を重視します。急性期の治療と慢性期の治療内容はことなって当然です。また、薬にしても効果や副作用を確認しながら投与し、もっともよい成果の上がる薬を探していくのが普通ではないでしょうか。
認定する側は、治療経過をみることで患者の訴える症状の程度を図ろうとしていると思われます。ですので、症状がなかなか治まらないのに治療内容に変化がない場合は医師と治療方法について話し合いを持つことをお勧めします。
one point advice 同じ薬の長期間の服用については、「消炎鎮痛剤の副作用には、頭痛・頭重感・嘔気・めまい・耳鳴・シビレ感等があり、長期にわたって使われている場合、患者の訴えている症状はまさしくこの副作用によるものが主体ではないかという追及ができると思います」という保険会社の顧問医の見解があります。 ただし、治療に関しては主治医の先生とよく話し合ってください。 |
Ⅳ.後遺障害診断
症状固定となりますと後遺障害診断に移ります。症状固定というのは、ケガに対する賠償の終わりを意味します。つまり、症状固定以降はケガの治療費は払われないということです。その代わり、もし後遺障害として認定されたなら後遺症ついて賠償されます。実務上は主治医が後遺障害診断をした日が症状固定日という扱いがほとんどです。
むち打ちの場合、認定する側は事故から6か月過ぎてからでないと判断を保留しますので(結果として等級認定されない(非該当))、後遺障害診断は事故から6か月経過したのちにお願いしてください。
one point advice 6か月経過するまえに、保険会社から「来月からは治療費を支払えません」(治療費の打切り)と連絡してくることが稀にあります。交渉で少しは伸ばせるかもしれませんが、まだ症状が残っているのでしたら健保に切り替えて通院を継続してください。 そして、6か月経過してまだ症状が残っていたら後遺障害診断を受ければよいのです。治療費を打ち切られたからといって通院を止めてしまっては、認定を受ける際にマイナスとなってしまいます。 治療費の打切りは保険会社が単に治療費の賠償をしないということで、治療をしてはいけないということではありません。症状が残存しているのであれば治療を受けるべきです。 |
(ア) 後遺障害診断書
被害者の方の多くは後遺障害診断書を見たことがないとおもいますが、これは必ず見てください。
被害者の方は後遺障害の認定手続きを加害者が加入する保険会社に任せるケースが非常に多いのですが、最大の問題は医師が後遺障害診断書を「直接」保険会社に送ってしまい、被害者に見せないケースが多いことです。意図して見せないわけではありませんので、頼めば見せてもらえます。ご自身の目で見てどのようなことが書かれているかを確かめ、わからないことがあれば必ず医師に尋ねるようにしてください。
確認をしなかったがために等級が認定されなかったケースも実は多いのです。一旦、提出された書面の内容は再度の申請(異議申立)をしても覆ることは稀です。保険会社にわたる前でしたら、主治医にお願いして加筆や訂正をお願いできる可能性があります。
他覚的所見のないむち打ちの場合、ポイントとなるのは自覚症状と治療や症状の経過と予後欄の3つです。この3つだけは最低限確認してください。
(イ) 検査
認定する側(自賠責損害調査事務所)は症状固定時の症状について、医師に画像所見、自覚症状に対する神経学的検査結果など他覚的検査所見に基づいて記載するように求めています。
検査名 | 内容 | 重要度 |
① 画像検査 | ||
画像 | レントゲン、MRI、CTなど | 高 |
② 神経学的検査 | ||
腱反射 | 程度、左右差など | 高 |
筋委縮 | 部位、周径差など | 高 |
病的反射 | 程度、左右差など | 中 |
筋力 | 部位、左右差など | 低 |
知覚異常 | 範囲、内容、程度など | 低 |
握力 | 左右差 | 低 |
疼痛誘発 | スパーリングテスト、ジャクソンテストなど | 中 |
③ その他 | ||
関節可動域 | 部位・程度、自動値・他動値など | ※注 |
※注:骨折や脱臼など器質的損傷や神経の損傷がある場合にのみ重要度「高」です
Ⅴ.非該当、14級、12級の違い
12級13号 | 「局部にがん固な神経症状を残すもの」 外傷性頸部症候群に起因する頭頸部や上肢、背部に残存する症状が、神経学的検査所見や画像所見などの他覚的所見により、医学的に証明しうるもの |
14級9号 | 「局部に神経症状を残すもの」 外傷性頸部症候群に起因する症状が、神経学的検査所見や画像所見などから証明することはできないが、受傷時の状態や治療の経過などから連続性・一貫性が認められ説明可能な症状であり、単なる故意の誇張ではないと医学的に推定されるもの |
症状が医学的に証明できるか
12級と14級の分水嶺は医学的証明の有無です。
医学的証明とは、
自覚症状→神経学的検査→画像
という順番でなされます。
患者の訴える自覚症状を詳しく聞き取り、それが腱反射、筋委縮、疼痛誘発テスト(スパーリングテスト、)などの神経学的検査によってその(患者の訴える)自覚症状が確かにあることが医師(患者以外の人)により確認でき、さらに神経学的検査によって推定された症状の原因箇所が画像で確認できた場合に初めて医学的証明ができたといえるのです。
たとえば、受傷当初から症状固定時まで一貫した頸部痛、右手シビレの症状があり、腱反射が右上肢で低下、さらに画像で頸椎C5/6で神経根への圧迫が確認できる場合には医学的証明がなされたとされます。症状推移や神経学的所見の推移に加え患者の訴える症状と画像所見、神経学的検査に整合性があるか否かが審査の対象となります。
かなりハードルが高いことがお分かりいただけたと思います。単に、レントゲンで異常所見が見つかっただけでは、残念ながら12級は認定されないのです。
症状が、連続・一貫しているか
症状が連続し、かつ一貫しているかどうかは、受傷時の状態、治療の経過などをもとに判断します。この要件は、主に14級の判定で使われます。
○受傷時の状態
事故が車の全損を伴う場合やそれに近いケースでは、できれば車の写真、現場の写真などを撮っておいて、事故状況報告書とともに提出するようにしてください。
○治療の経過
治療の内容と通院頻度などをみます。
一貫性について補足します。最初は首の痛みだけであったものが、その後背中や腰、または頭痛やめまい、耳鳴りといった症状がでてくることはよくあることです。一貫性がなくなるからと首の痛み以外の症状を医師にいわないでおこうなどとは思わないでください。等級よりも治ることがなによりも先決ですから。それに首の痛み以外の症状があったとしても首の痛みがずっと続いているのであれば一貫性はありますし、首の痛みからいろいろな症状が派生することは認定する側も理解していると思います。 むしろ、当初から訴えていた首の痛みの推移が肝心です。治療途中や症状固定時に、かなり軽減したり消失していれば一貫性はない、あるいは将来にわたり残存するものではないと判断されます。受傷時の症状の経時的推移が重要なのです。 |
症状が、医学的に説明可能か
医学的な証明にまでは至らないけれども、医学的に症状の存在を説明することは可能だという意味です。
つまり、医学的証明の判断過程、神経学的所見→画像所見のうち、神経学的所見に乏しいか、画像所見がはっきりしないか、あるいは神経学的所見と画像所見との間の整合性がはっきりしない場合であっても治療経過などから症状の残存が説明できる場合に説明可能という判断になります。
ですので、治療経過というのはとても重要な判断要素となります。
症状が、故意の誇張でないと医学的に推定できるか
医学的に説明可能かどうかの要件とほぼ重なると思います。おそらく、認定する側の担当者に向けた注意喚起と思われます。
最後に
今後も新たな情報を追加、更新していく予定でおります。
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